運動器の不調に悩む人は50歳を過ぎると急増し、70歳代で最も多くなっています。日本人は世界トップレベルの長寿を誇っていますが、その分、神経や筋肉、骨、関節などの運動器を酷使し続けているともいえます。
運動器は連携プレイをとっているため、もし、運動器のどれか1つでも不調になれば、今まで当たり前のように行っていた身体活動が突如として難しく辛いものに変わってしまいます。また、不調になった運動器の役割は他の運動器が補うものの、その負担は計り知れず、やがて、補いきれなかった運動器までも不調になってしまいます。
例えば、骨粗しょう症の痛みによって活動量とともに筋力が低下すると、体重を支えるなどの筋肉の役割を腰や膝などが補うようになりますが、こうなると、やがて膝の関節にある軟骨が磨り減るなどして、膝に痛みが現れるようになります。そして、活動量はますます低下して悪循環に突入することになります。
このように、運動器の不調は、日常生活だけでなく健康寿命も脅かすのです。そこで、少し前から注目されているのが「ロコモティブシンドローム」です。
ロコモティブシンドロームとは、運動器が衰えて「立つ」「歩く」といった動きが困難になり、要介護や寝たきりになってしまうこと、または、そのリスクが高い状態のことで、公益社団法人日本整形外科学会によって提唱されている言葉です。ロコモティブは、英語で「運動の」または「機関車」という意味であり、年齢を重ねることに否定的な意図を持ち込まないことが大事であるとした上で、機関車の力強く前進する能動的なイメージを取り入れて名づけられています。
現在、ロコモティブシンドロームに陥っている人は、予備軍も含めて4000万人とも5000万人ともいるとされています。気づかないうちに陥っている場合が多いため、なるべく早いうちに自覚し対処することが必要です。
また、少し前の厚労省の調査によると、介護が必要となった主な原因の順位は、1位:脳血管疾患、2位:認知症、3位:高齢による衰弱、4位:関節疾患、5位:転倒・骨折となっていて、運動器の不調がきっかけで要介護状態になることが決して珍しくないことがわかっています。
そこで、運動器と長く上手に付き合うために、普段の生活のなかで、次のようなことが思い当たらないかどうかを確認してみましょう。
■片脚立ちで靴下がはけなくなった
■家の中でつまずいたり滑ったりする
■家のやや重い仕事(掃除機の使用、布団の上げ下ろしなど)が困難である
■階段を上るのに手すりが必要である
■15分くらい続けて歩くことができない
■横断歩道を青信号で渡りきれない
■2kg程度の買い物(1ℓの牛乳パック2個程度)をして持ち帰るのが困難である
このチェックは、主に、神経の衰えなどによるバランス能力の低下や、筋力の低下が考えられるかどうかをみることができます。
また、膝や腰の病気が疑われる場合もあるため、もし、1つでも当てはまった方は、整形外科専門医などに相談することがすすめられています。