胃が疲れると、もたれたり痛んだりするため、私たちは早いうちに気付くことができます。
しかし、肝臓は、痛みを発する神経がほとんど存在しないため、その疲れに気付きにくい臓器です。
①たまりすぎた中性脂肪 ~脂肪肝~
肝細胞の中には、もともと中性脂肪が存在しています。その重さは、肝臓の重さの約2~5%ですが、30%を超えた人は脂肪肝と診断されます。中性脂肪が増えた肝細胞は膨らむため、全体的につやつやしとして引き締まっていた肝臓は、白っぽくブヨブヨと腫れあがったような状態に変わってしまいます。そして、膨らんだ肝細胞同士が、その間に走る毛細血管を圧迫するため、血液が届きにくくなった肝細胞から順に壊れていきます。
アヒルの脂肪肝はフォアグラと呼ばれ、その味が世界中でもてはやされていますが、人間の脂肪肝は誰にも喜ばれることはない上に、自らの健康寿命を縮めてしまいます。
脂肪肝を防ぐために効果的な方法の1つは、内臓脂肪を減らすことです。内臓脂肪とは、腹部の臓器を包んでいる腸間膜に存在する脂肪細胞にたまった中性脂肪のことです。
腸間膜は門脈のすぐそばにあるため、内蔵脂肪から分解された遊離脂肪酸は、直接肝臓へ流れ込みます。すると肝臓で中性脂肪に作り変えられ、水をはじかないようにタンパク質と結び付けられたVLDLという形で血液中へ出て行きます。ところが、内臓脂肪の多い人は、肝臓へ流れ込む遊離脂肪酸の量も、作り変えられた中性脂肪の量も多いため、VLDLに変えるしくみが間に合わず、中性脂肪のまま肝細胞の中に蓄積していきます。
②多すぎるアルコール ~アルコール性肝炎~
肝臓へ流れ込むアルコールの量が多いほど、発生するアセトアルデヒドの量も増えるため、肝細胞が破壊されて炎症が起こります。また、肝臓は解毒の仕事に精一杯で他の仕事を後回しにしてしまうため、脂質の代謝が滞り、やがて脂肪肝が引き起こされてしまいます。
なお、日本酒3合以上を5年以上にわたってほぼ毎日飲み続けている人のうち、3分の1はアルコール性肝炎をはじめとする肝障害に陥ると考えられています。
③A型肝炎ウイルス ~A型肝炎~
A型肝炎ウイルスは、住み着いている人の便などを通じて一部が体外へ出ていきます。そして、便などの一部が付着してしまった飲食物を通じて新たに別の人の体内に入り込み、消化管から門脈を経て肝臓に住み着きます。A型肝炎ウイルスが引き起こすA型肝炎は、アジアをはじめとする海外において多くみられますので、旅行の際は、飲食物はもちろん、飲み物に入っている氷、コップ、スプーンなどの食器にも注意が必要です。また中高年層の80~90%は抗体を持っていますが、若年層では持っている人が少ないため、特に注意が必要です。なお、このウイルスは約1ヶ月の潜伏期間があることから、旅行中に感染しても、多くの場合は日本へ帰ってしばらくしてから発症します。
主な症状は、疲労感、食欲不振、頭痛、発熱(37~39℃)などが数日間続くなどがあり、症状が出た約1週間後に黄疸がみられることが多くあります。ただし、治療によって完治しやすく、慢性化することはほとんどありません。
④ B型肝炎ウイルス ~B型肝炎~
B型肝炎ウイルスは、住み着いている人の血液や精液、膣液などを通じて別の人の体内に入り込み、新たに住み着きます。以前は、B型肝炎ウイルスを持つ母親の出産の際に、産道を通って大量の血液を浴びた胎児が感染する例が多くありましたが、最近では適切な 感染予防策がとられています。B型肝炎ウイルスの潜伏期間は約1~6ヶ月です。
引き起こすB型肝炎の症状は、食欲不振、全身のだるさ、頭痛、吐き気、下痢などが 1~2週間続くなど、A型肝炎と似ていますが、発熱がみられることは少ないようです。その後は、黄疸が2~4週間続き、徐々に回復していきます。
④ C型肝炎ウイルス ~C型肝炎~
C型肝炎ウイルスは、住み着いている人の血液を通じて別の人の体内に入り込み、新たに住み着きます。以前は、輸血や血液製剤を通じた感染が多く見られましたが、現在では、感染者の血液が付いた注射針を謝って自分に刺してしまう事故や、入れ墨などによる感染がみられます。
C型肝炎ウイルスの潜伏期間は約1~3ヶ月です。引き起こすC型肝炎の患者のうち、約80%は症状のないまま炎症が6ヶ月以上続いて慢性化してしまうため、治療期間は長期にわたります。
症状が現れる場合は、疲労感、食欲不振、頭痛、吐き気、発熱、下痢などが代表的です。
なお、これらの肝炎ウイルスは、空気を通じて感染することはありません。